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ひたひたと、白い廊下を歩く。朝の喧騒は耳障りではあったが、特に不快ではなかった。 擦れ違うと何人かの男子生徒がジェイドを見た。会話が耳に入ったが、前の学校と大して変わりはなかった。 別にナルシストなわけではないが、容姿が普通の人より幾分か整っていることは自覚している。 羨ましいと言われたこともあったが、その分面倒な事も多い。電車など、人の多いところは好きではない。 失礼します、と声をかけて職員室の扉を開く。いくつものデスクが並び、あるものは綺麗に整頓され、あるものはプリントやら教材やらがうずたかく積まれていた。 幾人かの視線が向けられる。ちなみに瞳が赤いのは生まれつきであった。突然変位であるらしいが、偶然とは思えなかった。 担任と適当な話を済ませ、漸く教室へと向かう。始業のチャイムは鳴っているので廊下に人気はなかったが、教室内は相変わらずざわついていた。 向かう教室は3階にある。職員室は2階にあるので、緩やかな階段を上る。冷たい手摺りの感触は何故だか手によく馴染んだ。 踊り場にある大きな窓からは外の景色が一望できる。校舎は坂の上の見晴らしの良い場所に建っている。晴れた空がどこまでも広がっていて、眩しかった。 扉の向こう側は他に比べて騒がしかった。転校生が来るということは知らされているから、おそらく自分の事が話題になっているのだろう。 人付合いは面倒だ。一人でいる方が気楽ではあったが、それはそれで面倒も多い。 瞼を伏せると、担任が振り返って微笑みかけて来た。緊張していると思っているのだろう、背中を、ぽん、と押される。微笑み返すと担任が扉に手をかけた。 「皆知ってると思うが、このクラスに生徒がもう一人増えることになった」 お決まりの言葉に教室内がざわつく。視線で促されて足を踏み出した。 教室内はそこそこの広さがある。ちなみに私立の学校だ。等間隔に机が並び、40人ほどの男女がこちらを見ていた。 ひとり、やけに目につく男が居た。 眠っているのだろうか、机に伏して顔は見えなかったが、髪の色は眩しい程の金色である。差し込む陽光を受け、きらきらと光っていた。髪の隙間から覗く骨ばった手は、やや浅黒く思える。 まさか。と、明らかなまでに動揺した。その場に縫い止められたかのように動けなくなり、視線は彼から離すことが出来なかった。 もし、彼がピオニーであったなら?記憶は持たないかもしれない。私の事など覚えていないかもしれない。命さえ狙われていたあの頃とは環境がまるで違っているだろうから(少なくともあの頃よりは平穏な生活を送っているはず)、性格だって違っているかもしれない。 それでも。それでも。彼がピオニーであったなら? 目まぐるしく巡る思考は止めることが出来ない。口の中は渇いていて、指先は震えていた。 彼は机に伏せたまま、答えを明かそうとはしなかった。 「おい、どうした?」 肩を揺すぶられて、我に返った。自分と彼以外真っ白だった空間は徐々に形を取り戻し、停止していた聴覚は再び働き出す。動かなかった視線をぎこちなく担任へと向ける。 「具合でも悪いのか?」 「……いえ、だいじょうぶ…です」 心配そうに覗き込んでくる担任に、ひりつく喉からなんとか声を搾り出す。ひどく掠れたそれは、大丈夫と言うには頼りない。 何か言いたげな担任にどうにか微笑みを向けると、硬直していた足を動かし教卓の隣に立つ。 「ジェイド・カーティスです。宜しくお願いします」 何事もなかったかのように言って、いつもの笑顔を作った。
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