がばりと布団を跳ね上げて起きると、そこは同年代のものと比べると殺風景な、いつもの白い部屋があった。
心臓は目まぐるしく伸縮を繰り返し、がんがんと煩いくらいに頭に響いた。


何度も見る夢は、何度見ても慣れなかった。
簡単な朝食を作りながら、溜息を吐く。フライパンに落とした卵を焼く指先は震えていて、もう一度溜息を吐いた。
焦げないうちに火を止め、用意して置いた皿に程よく焼けた卵を移す。軽く塩胡椒を振っただけのものをジェイドは好んでいた。
これまた程よく焼けたトーストを口にくわえ、皿と箸を持ってテーブルへと向かう。物の無い質素な、良く言えばシンプルな部屋は、何処か無機質な印象を与えた。
食欲はなかったが、何か食べなければ身体が持たないのは経験上理解していた。
いつもの夢を見て、気分の悪いまま何も口にせずに学校に行った事があったが、授業中に倒れるという失態を犯した。
以前、研究に没頭していた頃は食わず寝ずでいる事など常であった。誰かが研究室の扉を開くまで、ずっと文字の羅列を見つめていた。
薄くバターを塗ったトーストを一口かじり、瞼を伏せる。以前と今を比較するのは悪い癖だった。
あの頃とは何もかもが違うのだ。…そう、性別さえも。

僅かにふくらむ胸元に目をやる。発育は悪いが、それでも確かに女のものであった。逆に、下半身には以前はあったものがなくなっている。
混乱して訳のわからなくなった時期もあったが、流石に今では慣れてしまった。
…否、月のものだけはいつまで経っても慣れる気はしない。


ジェイドには恋愛の類の経験はなかった。
上辺だけではあるが人当たりが良く、見目も良い為、今まで幾度か言い寄られたこともある。同じように仲の良い友人は居たが、心まで許せる人物はいなかった。特殊な事情があったのも確かだが、それだけが理由とは言い難かった。
簡単に言えば忘れられなかったのだ。
あたたかな掌だとか、空や海のように深い瞳であったりとか、眩しい金糸とか、心地良い低音の声とか、あげればきりがなかったが、思い出せば辛かった。 彼の人に捧げた忠誠はそうたやすく忘れられるものではない。すべてを、そう、文字通り全てを捧げるほどに愛していた。
今のジェイドは、男性から抱きしめられた事すらなかったが、別にそれを恥ずかしいと思ったことは無い。
きっとこれから先もそうあり続けるのだろう。他の誰も愛さず、いつまでも彼に縛られて生きる。
ジェイドはそれで満足だった。
ただひとりの愛するひとの為に純潔を守り通す。自分で嘲笑ってしまうほどに一途だった。

最後の一口を胃袋に押し込み全てを平らげると、使った皿と箸を洗って着替えの準備をした。
身に着ける制服は新しいものだ。現在の年齢は17となるので、入学ではなく、編入である。
ジェイドは現在の両親を早くに無くし、身寄りもなかった為、以前のように養子に入った。つい最近まで義父と義母と共に暮らしていたが、義父が仕事で海外へと行くことになった為、一人暮らしをすることにした。
実家で暮らしても、義父に着いて海外へ行ってもよかったが、正直他人と居るのは窮屈であったので今に至る。義父も義母も、メイド達も皆良い人だったし、好いてはいたがやはり他人には変わりなかった。
わざと実家から離れた場所に住む事にしたので、学校も変わる。
最後の日、クラスメイトの何人かは泣いていたが、未練などなかった。
我ながら冷たい人間だと思う。やはり、本質的なところは変わっていないらしい。

冬の空気で冷たくなっている制服に袖を通し、釦を掛け、上着を着てリボンを結ぶ。割合短いスカートにも慣れた。まあ、あの軍服もスカートみたいなものだった、と、笑う。すこし寂しかった。
最後に白のニーソックスを穿く。時計を見ると丁度良い時間だった。
鞄を持ち、汚れの無い革靴を履いて冷たい鉄の扉押し開ける。

一人暮らしを始めてから、行ってきますとは言わなくなっていた。




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男→女っておいしいですよね^^^^



090222