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ひゅく、と、息が震えた。 身体の中に篭る熱をうまく吐き出すことが出来ず、時折声の混じる不規則な呼吸を繰り返す。熱くて痛くて苦しくて目尻に溜まった涙を熱くぬめる舌で掬い取られ、焦点の合わない目を、その原因である男に向ける。 視線が合うと男は嬉しそうに笑った。 ジェイドには所謂、前世の記憶と呼ばれるものがあった。 しかし、記憶の中の世界と今の世界はあまりにも違う。仕組みも、情勢も、世界そのものですら。 故に、前世と呼ぶには少なからず無理があるとジェイドは思う。今の世界には音素もなければ預言もない。以前は信じた事などかけらもなかったが、平行世界というものなのかもしれない。あれほど世界を−記憶の中のオールドラントを−狂わせた預言はこの世にはないのだ。 それがひどく可笑しくて、同時に悲しかった。 幼い頃は不明瞭だった記憶は歳を重ねるごとにはっきりとしたものとなり、十を過ぎる頃には全てを思い出し、理解していた。 勿論、全ては自分が作り出した妄想に過ぎない可能性もある。寧ろ、その可能性の方が大きかった。だからジェイドは自分以外の人間に記憶の事を話したことはなかったし、これから先話すこともない。 ただ、青を目にするたびに揺らぐこころだけは嘘とは思えなかった。 今でも夢を見る。 赤く染まる街に響く水音だけがやたらと煩い。身体の動きはいつもよりずっと鈍く、普段はよく回る頭は何も考えることが出来なかった。 それでも薙ぎ払う腕は止めず、背後にいる主に触れさせまいと血を浴びた。 足が感覚を失い、膝を着くとだらりと下がった右腕を鈍く光る剣で貫かれる。痛覚などとうに麻痺していた。 今度は腹を貫かれた。血を吐くと、その場に倒れ込む。目が霞んで、意識は朦朧としていた。 さいごに、さいごに。全てを捧げた男を見上げると、目の前でその首が飛んだ。
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