「捻挫したァ?」
ベッドに腰掛けているジェイドを見て、ピオニーは呆れたように言った。ジェイドはその視線を受けながら細い足首に真っ白な包帯を巻いていた。痛ましいその光景にピオニーは眉をひそめる。
「何だってそんなことに…」
ジェイドは視線を上げて蒼を見据える。じいっと見つめられ、ピオニーは僅かにたじろいだ。ジェイドは嫌味なくらいににっこりと笑う。いや、本当に嫌味なのだろう。
「未処理の書類を抱えていて段差に気付かなかったんですよ」
その書類というのは本来ならばとっくに受理されていたはずのものだ。ピオニーの怠慢のせいでいつまで経っても議会に提出できないのを、ジェイドがいい加減にしろと持って行く途中だったらしい。
嫌味笑いを受けながらピオニーは肩を竦める。間接的な原因は確かに自分にあるわけだが、直接的に悪いのは不注意だったジェイドの方だ。

「老体に無理強いは良くないことくらい貴方だってご存知でしょうが」
言わずとも態度でわかったらしい。不機嫌さの滲んだ声が帰ってきた。付き合いが長いだけはあるものだ、とピオニーは感心する。
「それはそうと、お前今夜どうする気だ?」
「どうって、こんな状態じゃ部屋まで行けるわけがないでしょう」
呆れたようにジェイドが言う。えー、とぶうたれたようにピオニーが言うと厳しい一瞥が寄越された。
「その有り余ったやる気を仕事に回してください」
「書類なんざで抜けないから嫌だ」
当然のように言い放つとジェイドは救いのないような目でピオニーを見上げた。線はひどく冷たかったが、ピオニーはそちらよりも肌蹴られた襟から覗く鎖骨が目に入り、どきりとする。
そうとう飢えているのか、と自分自身に呆れながらも身体はやはり正直だ。だが流石にこんな薬臭い医務室で押し倒す気はない。せめて自室がジェイドの執務室ぐらいには行きたいものだ。

そんな思考を読み取ったかのようにジェイドが口を開く。
「今夜は此処で安静にしてるつもりですから」
それはピオニーとってはさながら死刑宣告。
冗談、と目を見張ってみるが返ってくるのは嘲笑のみで、むかっときて意地でも事を成し遂げてやると心に誓った。

「ちょっ、何を!」
咎めるような声は完全無視で、ジェイドを横抱き、俗に言うお姫様抱っこをしてピオニーは意地悪く笑う。
「歩けないのなら俺が連れていってやるよ」
「結構です!下ろして下さい!!」
「可愛くないものの頼み方だから却下」
元々聞く気などないくせに、とジェイドは毒づく。結局こうやって流されて、それなのに満足してしまっている自分が憎くてしょうがない。
途端、再びベッドに下ろされてジェイドは思わず瞠目する。
「重い…」
「まあ70はあるわけですし」
流石に横抱きはきつかったらしい。ピオニーは苦笑しつつ、ジェイドに背中を向けてしゃがみ込む。意図を汲み取れずジェイドは僅かに戸惑った。
「おぶってやる。のれ」
「なっ…!!」
ジェイドは思わず顔を赤らめる。
「早くしないと此処で押し倒すぞ」
有無を言わさぬその態度にジェイドは引き際を悟る。盛大な溜息をひとつ着いて彼の首に腕を絡めた。






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懐かしいものを発掘そのさん。
いちゃいちゃしてるおっさんたち。